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研究者に聞くシリーズ

ゲノムコホート研究ってどんなもの?生活にはどう関わる?

研究者に聞くシリーズ

“がんになってから治すのではなく、ならないように予防するための研究”
ゲノム情報を知ることで、健康管理がより合理的、効果的に

   
教えてくれた研究者
神奈川県みらい未病コホート研究 研究事務局長
神奈川県立がんセンター臨床研究所がん予防・情報学部 客員研究員
神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーション研究科 講師 中村翔

──このような研究分野に入られた経緯を教えてください。

中村──山形大学で研修医を始めた頃に、山形大学分子疫学コホート研究について学びました。この時に、遺伝子要素と環境要素(生活習慣)を合わせて解析することで、がんを予防しようという研究があることを知りました。研修医時代にいろいろな診療科で研修を重ねる中で、腫瘍内科に一番興味を持ったということもあります。

──腫瘍内科とはどんな診療科ですか?

中村──薬物療法(抗がん剤治療)を中心に、がんという病気に対して内科医としてかかわっていく診療科です。ただ抗がん剤治療だけを行うのではなく、患者さんの先導役となって、この病気の場合、手術するのがいいのか放射線治療がいいのかといった、治療の方針を一緒に決める手助けなどもします。治せる患者さんはもちろん全力で治すのですが、残念ながら完全には病気が治らない非根治の患者さんもおられます。その場合は、患者様ご本人の人生観やQOL(生活の質)を尊重した形で治療方針を決めていくこともあります。

──ゲノムコホート研究に関心を持たれた理由は?

中村──そうですね。研修医時代に、がんになってしまってから治すのではなく、そもそもがんにならないように予防するための研究、ゲノムコホートが進んできていることを知りました。がんのなりやすさはその方によって異なり、この体質の方はタバコを吸わないことが重要なんだとか、こういうタイプの方はアルコールに気をつけるべきなんだとか、病気と生活習慣との関係は密接にあることがわかってきました。がんを予防できるに越したことはありませんが、漠然と「予防しましょう」というのではなくて、エビデンスに基づいて、その人に合う形での予防方法を示すことができれば、非常に説得力があるのではないかと思い、この分野を魅力的に感じました。

──ゲノムコホートを一言で説明すると?

中村──コホート研究とは、調査した時点で、仮説として考えられる病気の要因(例えば、喫煙歴や肥満など)を持つ集団と持たない集団を追跡し、両方のグループの病気の罹患率または死亡率を比較する研究方法です。調査した時点から未来に向かって前向きに追いかけていく研究で、何十年という長期的なスパンで特定の集団を追跡していきます。ゲノムコホート研究はこのコホート研究の一種で、主に参加者の遺伝子の型と病気の発症との関係について調べていく研究になります。

──ゲノムコホート研究は、いつ頃始まったのでしょうか?

中村──ゲノムコホート研究のスタートに先駆けて、2003年に、日米英などの6か国で構成する国際的なコンソーシアムが、ヒトの遺伝子をすべて解読完了したという、いわゆる「ヒトゲノム解読完了宣言」を行いました。ヒトの分子レベルの設計図であるヒトゲノムDNAの30億塩基配列の解読を完了したことを、日本の当時の総理・小泉純一郎氏を含む、6か国の首脳が連名で宣言したニュースを覚えていらっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。
この後、2000年代の半ばぐらいから、住民を対象とした英国の長期大規模ゲノムコホートである「UKバイオバンク」などがスタートしました。日本では、名古屋大学医学部研究科を中心に始まった10万人規模の住民を対象とした大規模ゲノムコホート、J-MICC研究が知られています。J-MICC研究は、私たちが取り組んでいる神奈川県みらい未病コホート研究の共同研究のパートナーでもあります。

──そもそも、人の設計図(ゲノム)の解読では何を解読しているのでしょうか?

中村──ゲノム情報を構成するDNAは4種類の塩基で構成されています。具体的には、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)という4つの塩基からなり、AとT、GとCがそれぞれ組み合わさったものが繋がってDNAになっています。ゲノム解析ではこれらの塩基の並び順を解読します。この塩基の並び方は、ヒトでほとんど共通しているのですが、誰しも少しずつ違う箇所もあり、これが個人差をもたらしています。この違いの一例として、ある特定の一塩基だけの変化をSNP(single nucleotide polymorphism)と呼び、皆さんそれぞれの身体に関連した特徴に影響を与えることが知られています。

──ゲノムの解析にはどんな技術が使われているのでしょうか?

中村──SNPマイクロアレイや次世代シーケンサーなどを用いて解析が行われます。この技術はこの20年ほどでどんどん進歩しており、2000年台後半にからは解析するためのコストも大きく下がってきており、我々研究者にとっても研究しやすい環境になってきています。

──ゲノム情報の解析は私たちの生活にはどう関わってくるのでしょうか?

中村──ゲノムコホート研究の目的の一つに、皆さんが体調管理をしやすくなる、ということが挙げられます。この研究で、体質とも言えるゲノム情報と生活習慣との関係性について解析を行うことで、どのような生活習慣がその人にとって大きな影響を及ぼすのかがわかるようになるからです。例えば、簡略化した例をお示ししましょう。ある人の遺伝子を調べた結果、その人の体質では体重に影響する生活習慣のうち、食事と運動が影響する割合が1:3だったとします。体重管理を考えれば本来、食事と運動、どちらも大切ではありますが、この人の場合は、まずは運動を頑張ることがダイエットの近道になるということです。このように、ゲノム情報の研究を進めることで、将来、私たちは健康管理をより合理的かつ効果的に行うことができる時代になっていくと考えています。