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研究者に聞くシリーズ

がんと遺伝子の関係は?カウンセリングがコホート研究で必要な理由とは

研究者に聞くシリーズ

保険収載で身近になってきた「がんゲノム医療」
参加者に重要な病気があることがわかった時、適切に伝えるサポートを

 

教えてくれた研究者
神奈川県立がんセンター 遺伝診療科 認定遺伝カウンセラー 羽田恵梨(左)・佐藤杏

神奈川県みらい未病コホート研究の運営主体、神奈川県立がんセンターには遺伝診療科があり、コホートの研究責任者、臨床研究所がん予防・情報学部部長の成松宏人が診療科長を兼務しています。今や、がんの研究にとって切っても切り離せないほど重要な要素となっている「遺伝子」。この遺伝子に詳しく、遺伝診療科で「認定遺伝カウンセラー」として活躍する羽田恵梨さん、佐藤杏さんのお二人に、遺伝カウンセリングの内容やコホート研究の中での役割についてお話を伺いました。

──お二人は「認定遺伝カウンセラー」として働かれています。これは、どんな資格なのでしょうか?

羽田──認定遺伝カウンセラー®※1は、日本遺伝カウンセリング学会と日本人類遺伝学会という二つの学会が共同で認定している民間資格です。遺伝医療を必要としている患者さんやご家族に遺伝に関する情報を適切に伝え、社会の支援体勢等を含むさまざまな情報提供を行う保健医療・専門職で、心理的、社会的なサポ-トを通して、当事者の皆さんの意思決定を支援する役割を担います。

※1:2022年4月時点で、316名が登録(出典:認定遺伝カウンセラー制度委員会WEBサイト http://plaza.umin.ac.jp)。2019年1月18日付けで商標登録された。

──「認定遺伝カウンセラー」として働かれるようになった経緯を教えてください。

羽田──テレビの科学番組を見て、まだまだ遺伝子については解明されていないことが多いのだと知り、遺伝子が原因となって発症する「遺伝性疾患」に関心を持ちました。大学時代の専門は分子生物学で実験をコツコツやっていました。また、学部は教育学部だったため教育実習の機会もあり、実験ばかりではなく、人と接する仕事にも魅力を感じ、遺伝カウンセリングについて学べる大学院に進み、この仕事に就きました。

佐藤──私の大学時代の専門は看護学部だったのですが、学部の授業で、遺伝カウンセラーという仕事を知り、興味を持ちました。看護師としてキャリアを積むという選択肢もありましたが、遺伝カウンセリングの領域についてより深く学びたいと考えるようになり、大学院に進学。就活の際は、この領域の中でも特に遺伝性腫瘍に関わることができる仕事をしたいと考え、こちらに入職しました。

──お二人の所属は遺伝診療科ですが、もう一つ、がんゲノム診療科があります。この違いは?

羽田──私たちの所属する遺伝診療科は、遺伝性のがん(腫瘍)を心配される方が受診する診療科です。受診された方の考えや思いを伺いつつ、遺伝性腫瘍について説明し、その方の自己決定を支援する「遺伝カウンセリング外来」を行っています。
一方、がんゲノム診療科は、「がんゲノム医療」を受けたい方が受診する診療科になります。がんゲノム医療とは、一人ひとりの遺伝子情報に基づいて治療を行う、いわゆる「個別化治療」の一つ。がんゲノム診療科では、がんの発生に関わる数百の「がん関連遺伝子」の変異を一度に調べるため「がん遺伝子パネル検査」を行います。これによって遺伝性腫瘍が疑われるケースもあるので、二つの診療科で連携して対応しています。

──遺伝カウンセリング外来を希望される患者さんは増えているのでしょうか?

佐藤──2019年に「がん遺伝子パネル検査」が保険収載され、2020年には条件を満たした方に対して遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の遺伝学的検査※2や、今後発症するかもしれない乳がん、卵巣がんへのリスク低減手術が保険収載されたことも影響して、遺伝診療への関心は年々、高まっていると思います。特定の遺伝性疾患に関する遺伝カウンセリングに保険が適用される場合もあり、遺伝カウンセリング外来の受診者はそれ以前の2倍以上に増えています。

※2:遺伝性疾患をもっているかどうかを確かめるために、主に採血によって行う検査。

──具体的な仕事の内容について教えてください。

羽田──認定遺伝カウンセラーの仕事内容は勤務先にもよりますが、当センターでは主に、問診などで遺伝性腫瘍の可能性がある方を見つけ出す「スクリーニング」、医師と一緒に受診者に遺伝性腫瘍の特徴や診断された後の対応について説明し、受診者の自己決定を支援する「遺伝カウンセリング」、遺伝性腫瘍の体質があるとわかった方へのその後の「フォローアップ」という3つの仕事を担っています。

佐藤──スクリーニングでは、主に対象となる方へ病歴や家族歴に関する問診を行います。認定遺伝カウンセラーによる聞き取りだけではマンパワーに限界があるので、また、遺伝学的検査は内容が複雑で、用語自体が難しい面もあるので、遺伝カウンセリング外来では別の説明資料を作成するなど、受診者の理解を助けるお手伝いもしています。遺伝性腫瘍についての正確な情報を提供したうえで、遺伝学的検査を受けるか受けないか、ということを一緒に考え、最終的にご自身の力で選択できるよう支援を行います。

羽田──フォローアップでは、例えば、乳がんがきっかけでHBOCと診断された方の場合、婦人科での定期検査が必要になるので、通院を継続しているか、リスク低減手術についての考えはどうか、など半年から1年後の経過についてヒアリングを行います。また、血縁の方にどこまでお話が伝わっているかについても確認します。子ども・きょうだいは50%の確率で同じ体質を持っているのですが、受診されたご本人からご家族にその情報が正しく伝わっていない場合もあります。遺伝性腫瘍についての情報はかなり専門的な内容になるので、ご家族は直接受診して話を聴くことをお勧めしています。

──神奈川県みらい未病コホート研究の中ではどんな役割を果たされるのでしょうか?

羽田──コホートに参加される際に署名いただく同意書では、研究参加後の遺伝子解析で命にかかわる重要な情報がわかった時はご自身に伝えてほしいかどうかを伺っています。そのご希望があった方には、こちらで把握した遺伝性疾患の情報についてフィードバックすることになります。その場合、ただ単に結果だけをお伝えするわけにはいきません。コホートのご協力者に対して、倫理的に十分に配慮をした上で、結果をどのように情報提供していくかということを検討することも含めて、今後、コホート研究事務局をサポートさせていただくことになると思います。ご協力者には血縁者もいらっしゃいますし、こうした情報はご本人の健康管理にも血縁者の健康管理にも直結してくるので、遺伝カウンセリングは必須になると思います。

佐藤──がんゲノム医療では、がん細胞の遺伝子検査を行った後に、見つかった遺伝子の変化が本当にがんと関係する病的な変化なのかどうかを検討する会議を定期的に開いています。おそらく、コホート研究の方でも解析結果が出始めた時に、どのような情報を参加者にお返しすべきか、どの遺伝子について情報提供するかを決める会議なども必要になってくると思います。今後、そうした会議が開かれる場合は、認定遺伝カウンセラーとしてご協力させていただく可能性もあるかもしれません。

──最後に、神奈川県みらい未病コホート研究への参加を検討している県民の方にメッセージをお願いします。

羽田──がんは今や遺伝子を調べるのが当たり前の時代になっています。健康な方々の基本データは、今後の医学の発展のための基礎データでもあり、それがなければ病気の研究も進みません。日本の医学研究を進める上でも、この研究への皆様のご協力をぜひお願いしたいと思います。

佐藤──皆様のご参加によってこのコホート研究が発展していくことで、遺伝性疾患の方を含めたすべての方が、自分の情報を基にした適切な予防ができる未来もつくれるかもしれません。こうした誰もが健康を自分で守れる未来を、ぜひ私たちと一緒につくっていきませんか。

(構成:一般社団法人ハイジアコミュニケーション)

 

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